パンツに黴が生えた。

生えたと言うべきか繁殖したと言うべきか分かりませんがパンツにカビが付着していました。

僕の部屋は汚くて狭いです。
その狭い部屋の中を更に古本や雑誌がスペースを占有しています。
そして、さらにその上から服をポイポイ置いていくので部屋の中はシッチャカメッチャカで見栄えが悪いです。

家には洗濯機が存在しないので近所の銭湯のコインランドリーで洗濯しているのですが、洗いに行くのが面倒なのでパンツとシャツを三週間分用意して一気に洗濯するという銭金みたいな生活を僕はしているのです。

そして、今日三週間が経ち目出度く洗濯しようとしたんです。

そいたら、カビが発生しとった。

最初、上のほうの衣類を適当に入れてたんです。
十何枚目か入れたあたりで気がついちゃったんだなー。

なんか、シャツが緑っぽい。

なんか、パンツも緑っぽい。
それも社会の窓らへん。

なんかもう、社会の窓周辺がチンゲみたいになってた。

インドネシアあたりの小さな孤島に生える密林みたいに綺麗に密生していた。

僕の無機質な部屋の中でその部分だけ生命の輝きがあった。

しかし、この部屋の主としては憤懣やるせなかった。

気持ち悪さが半端じゃないし、気づいたら咳が出るわ出るわ。
ゲロ吐きそうになったわ。
ゲーゲー言ってティッシュで鼻詮して、口をカビてない使用済みパンツで覆って袋に衣類を入れました。

僕としては、自分の使用済みのパンツなんてクンクンする趣味が無いのに、こんな屈辱を味合わされてくれたカビは憎いと心から思いました。

正直、カビって存在はなんて迷惑な奴なんだろう?って一秒間の間に千回は考えた。

考えて考えて考え抜いた。

で、やっと気がついた。

カビも被害者なんだって。

そりゃね?カビは憎らしいですよ。

風呂場に発生するし、台所の三角コーナーの野菜のキレッパに発生するし、絵の具のビリジアンにまで発生する。

でもね、カビも迷惑だと思うんです。

何が迷惑ってね、そんな汚らしい陰日なたにしか発生できないんですよ?
人間の捨てたゴミや雑菌がウヨウヨしているような所にしか彼らは発生できないんです。
あまつさえ、見ず知らずの男性のアソコの納まる物やね、くっせぃー脇なんかに発生してしまうんですよ。

あなたがカビだったら、こんな童貞で気持ち悪くてナニを一日五回もやる人間のパンツに生えたいですか?
生育したいですか?
繁殖したいですか?

答えはNO。
絶対NO。
頑固に平和、頑固に護憲っていうぐらいNO。

僕にはカビの声が聞こえた。
痛いくらいに心に響いた。
小中学生が映画トトロみて泣く位その声に感動した。

だから僕は彼らに救いの手を差し伸べました。

コインランドリーに着くと、若い女の人が中から出てきました。

中を見ると乾燥機が一台だけ回っています。

僕は、一番カビで汚れたパンツを袋から取り出し横に置き、他の洗濯物を洗濯機にぶち込み金を入れて暫らくボーっとしてました。

十分たって女の人が回していた乾燥機が止まりました。

僕は周りを確認してから乾燥機の蓋を開け、カビパンツを素早く中に投げ入れました。

僕は、カビにいい思い出を作って欲しかった。

男のパンツに生えるぐらいなら女の綺麗なパンツに生えて欲しいと心から願った。

だから、乾燥機の中で他の衣類に胞子を振りまいて欲しかった。

そして僕は今やり遂げたんだ!!
と、一人で悦に入り込んでいたら先刻の女の子がやってきました。

ニヤケ笑いを止め、洗濯物に混じった僕のカビパンツの行方を見ると衝撃が走った。

もうね、どれが俺のカビパンツかわからない。

男物の衣類や下着しか無く、女性の物が無かった。

僕がギョッとしていると、

『エミ、早くしろや。』

と、後ろから声がした。

そこには、僕に負けず劣らずのブサ男がたっていて女を急かしていた。

女は、洗濯籠を抱えて出て行った。

僕は俯いて小さく呟いた

『カビよ。スマン。お前を幸せにしてやれなかった……』

呉一太はパンツを一枚落した。

MPが下がった。
HPが下がった。

呉一太は、自分にケアルをかけた。

104のダメージ。

呉一太は死んだ。

あっ、いけねー。
僕は存在がアンデッドだったw

回復しようとしても回復魔法がきかないや。
救いが無い。

寝る

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